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シロアリ豆知識

シロアリの木材の採餌と消化の仕組みについて

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シロアリは何故、木を食べることができるのでしょうか?

シロアリは木材成分の「セルロース」を栄養としていることが知られています。
私たちが食べている加工食品の中にも、製品同士がくっつきにくくすることを目的に添加される食品添加物の「セルロール」がありますが、人間の体では分解できずにそのまま体外に排出されています。

シロアリが餌(食料)としている木質に含まれる「リグノセルロース」(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)は、ほとんどの動物は消化する能力を持たないため、木質は動物に食べられることがない構造体なのです。

それでは、シロアリは、動物に食べられることのない木材をどのようにして体内に取り入れて、消化し、栄養としているのでしょうか?
今日は、シロアリが木材を餌とできる体の仕組みについてお話ししますね!

シロアリと腸内共生原生生物の関係

シロアリは木材をかみ砕いて口から体内に取り入れた後、前腸内の表面を覆う層状構造物「クチクラ」の隆起で破砕して、木材を0.01mm~0.02mmまでの大きさに断片化します(Fujita et al.,2010) 。その後、中腸の消化セルラーゼによってリグノセルロースの一部は消化されますが(Watanabe and Tokuda,2010)、ほとんどは消化されずにそのまま後腸に送られます。そして、後腸に棲む、共生原生生物の食作用によって原生生物の細胞内に取り込まれます。原生生物の細胞内で、セルラーゼとヘミセルラーゼは、これ以上に加水分解されない単糖にまで分解され、酸素の介在を伴わなずに発酵されます。この過程の反応で、セルロースは、酢酸と二酸化炭素と水素に変換されます。(yamin,1981) そして、生成された酢酸は、後腸で吸収されて、シロアリの主な炭素・エネルギー源となります。(Slaytor,2000)

つまり、シロアリが木材を餌とできるのは、シロアリの体内(後腸)に、原生生物(微生物)が棲んでいて共生しているからなんですね。
シロアリの腸内に原生生物がいなければ、木質成分は消化されずに栄養を吸収することができないため、シロアリは生きることができないのです。

この共生原生動物は、ヤマトシロアリは15種, イエシロアリは3種もち, 温度, 湿度, えさの質などで数が大きく変動し, シロアリの活力もそれにつれて変化する(森本桂,1965)ことが知られています。
虫かごの中などでの飼育環境下では、シロアリは長く生きることができないことがありますが、
シロアリの飼育が難しいのは、原生生物が、土壌や木材に含まれる微生物、餌の質などの影響を大きく受けるためではないかと考えています。

※尚、一般にリグニンは、シロアリの体内では消化されずに、そのまま腸を通過して糞便の塊として排出され、巣や蟻道の建設活動の材料となります。

シロアリが餌を取り込む3つの方法

口移しによる固形食物の移動


固形食物をそのまま口移しによって職蟻から職蟻に移動させます。
本質的に天然食物と変わらないため、消化の過程は、前述のような職蟻の消化の過程と考えられています。
つまり、まだ加工されてない食物の状態のため、原生生物を持たない兵蟻や幼虫、生殖虫には、固形のまま口移しで食物は移動されません。

唾液

職蟻の体内で加工し、消化しやすい状態の唾液で、原生生物を持たないシロアリに餌を分け与える方法です。
職蟻以外の幼虫や女王などの生殖虫、兵蟻では、腸内に原生動物が少なかったり、共生をしていないことがあるため、
一度、職蟻の腸内で消化しやすく加工された唾液を利用して、栄養を腸内に取り入れています。

肛門からの食物(原生動物の交換)

肛門から原生生物の交換
ヤマトシロアリやイエシロアリなどの下等シロアリでは、肛門から食物をもらい原生動物を取り入れています。肛門から食物を取り入れているのは、糞ではなく、胃に生存した原生動物が含まれる内容物で、原生動物を持つ個体が仲間の個体に原生動物を与えており、個体間で腸内に共存する原生動物を与え合っています。また、職蟻は一年に数回脱皮をしますが、脱皮の際に、前腸と後腸の内皮を、腸内微生物ごと脱ぎ捨ててしまい、職蟻の脱皮直後は、原生生物をほとんど持たない状態となります。そこで、他の個体の肛門から原生生物を受け取って、腸内に微生物の共生群を再構築します。このようにシロアリは社会性を生かして仲間同士で原生動物など腸内の微生物群集を共有して生きています。

まとめ

シロアリの腸内に棲む「原生生物と共存」と「仲間のシロアリとの共存」についてお分かりいただけましたか?
昆虫に馴染みのない方には少し難しかったかもしれませんね(^^)

シロアリの職蟻の腸内には、何種類もの原生生物が生きていて、シロアリは原生生物の食作用を利用して、動物に食べられることがない木質構造体の成分セルロールをうまく体内に取り入れていることをお伝えしました。

また、原生生物を腸内にもたない階級のシロアリたちは、職蟻の唾液や肛門から、職蟻の後腸で加工された餌を摂取して栄養を体内に取り入れています。

脱皮をしたばかりの職蟻では、内皮の腸内微生物まで脱ぎ捨ててしまっているため、原生生物をほとんど持たない状態になり、仲間の職蟻の肛門から原生生物を体内に取り入れて、腸内の微生物群を再構築しているんですね!

このように、シロアリは、食料である木質に含まれる「リグノセルロース」を分解してくれる原生生物がいなければ生きていくことができず、
また、職蟻の後腸に棲む原生生物によって加工された餌や原生生物を分けてくれる仲間のシロアリもいなければ生きていくことができません。
シロアリは、生殖階級と不妊階級などでその役割が分かれているだけでなく、シロアリの食の部分をクローズアップすると、多くの微生物との関係があり、個では生きていくことができない社会性昆虫であることが分かりますね!

※今回の記事の内容には、森本桂氏、本郷裕一氏(東京工業大学大学院生命理工学研究科)、西本孝一氏(京都大学木材研究所)の研究論文を引用、参考にさせて頂いております。

カテゴリ:生態